2011年9月14日水曜日

【山田真さんトークセッション】要旨とご感想

9月10日、パネルと写真展最終日の最後に、「子どもたちを放射能から守る小児科医ネットワーク」を立ち上げた山田真さんにお話をうかがいました。
会議室がいっぱいになるほど多くの方にご参加いただきました。お子さん連れの方も多く、靴を脱いでくつろげるスペースでごろごろする赤ちゃんも。子どもの声が響く、すてきなトークセッションになりました。
子どもをたくさん見てこられた山田さんだからこその、実践的なお話を伺うことができました。
真剣な質問もたくさん出ましたので、まとめが長くなってしまいましたが、どうぞご覧ください。
最後に、ご感想もご紹介しています。

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311日以降、広島長崎も経験してきたにもかかわらず、原発建設をとめることができなかったという思いで、無力感を感じていた。反対してきた人たちが落ち込むという状況だった。5月になって、「子どもを放射能から守る 福島ネットワーク」から、子どもを診てほしいという呼びかけがあって、少し立ち直った。
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健康相談は6月に福島と東京で、7月に福島で、計3回実施。
6月(福島):それほど切羽詰まった感じではない。子どもの健康相談というより、お母さんの心配を聞く。福島の医者は子どもの体調をとりあってくれない。事故後まったく情報がなく、配給の水を待って何時間も子どもをおぶって外にいた。自分の不注意で、とお母さんたちが自責の念。
6月(東京):避難をめぐって家庭内不和や、給食について学校にいうと怒られるような状態。それでも、相談会について記者会見もしたし、子どもも来た。
7月(福島):お母さんがおびえている。相談会に来ただけで村八分になるような雰囲気。
いま残っている人は、ここで生きていかざるをえない人で、心配だと口に出せないルールのなかで生きていかなくてはならない。子どもが一生差別されるだろうという予感。
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低線量被ばくにかんしては、データが少ない。米軍やチェルノブイリ事故のときのデータはあるが、どのくらいなら浴びても安全なのかはわからない。浴びれば浴びるだけ危険。
チェルノブイリを見てきた方の話を総合すると、甲状腺がんや白血病は増えるだろうが、それも、どこまでかはわからない。
そもそも病気と原因の因果関係を示すことは難しく、放射線の影響の実証は困難。第五福竜丸の久保山愛吉さんでさえ、アメリカは無関係だといった。
いま健康診断をする必要があるのは、長期的フォローと後々の補償のため。
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6月に福島に行ったとき、新幹線は復興支援のため1万円で乗り降り自由だった。車内は満席だった。しかし、福島駅で降りる人は、自分たち以外、だれもいなかった。
福島の人たちは、日本が福島を切り捨てて生き残ろうとしていると感じているのではないか。沖縄と同じように。福島にいる人たち自身が、「いい情報しか聞きたくない」「福島は安全」と言ってしまうのは、歴史的にそういう経験があるから。
ぜひ一度、行ってみてほしい。ああいう部分を抱えて、豊さを味わってきたのだということを知って、福島のことを考えていきたい。
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― 県庁の指示で福島の医師会が診断しないというのは事実か
現地の人たちの健康管理を長期的にやるとなると現地の医師が必要。今回呼びかけて、ひとりだけ来てくれたが、知られると立場が悪くなるということで、記者会見などで名前は出せなかった。福島の医師会は、健康問題は心理的な問題であって放射能のせいではないという立場のよう。最近になっていっしょに健康相談会をと言ってきたが、トップが山下俊一氏なので、ペンディングにしている。

― 東京で何ができるか。福島に行って、ふみこんで何かやるとすればなにか。
東京でできることは、原発を止めること。国へものを言っていく。福島から人が来たら応援すること。
福島での相談会では、参加したお母さん方を共同通信の記者さんがフォローしてくれた。地元の人が胸襟をひらいて話ができるような場にいければよいが、気持ちがわからなくても、場所を見るだけでもちがうのではないか。出かけてくる人がいることで、福島の人たちの、「捨てられる」という感情はやわらぐのではないか。福島を敬遠する、その気持ちを子どもたちも感じ取っていくのでは。
子どもたちは、放射能とともに生きていかなくてはならない当事者。この際放射能にかんする教育をして、差別がおこらないようにしなければならない。低学年向けの放射能絵本をつくろうかと考えている。

― 科学者やいろいろな専門家が市民の立場で専門知識を生かすために必要なことは。
今回の健康相談では十数人がいっしょにやっているが、低線量被曝の専門家ではない。まずは話を聞いて、必要なこと、わからないことがあればそれから勉強すればいい。とくに小児科医は、子どもの診療だけでなく親御さんの不安を共有するのも大事。

― 福島のお母さんたちが不安を口に出せないというのを聞き、痛ましくてたまらない。自分も区に給食のことを求めたりしている。これから、健康診断に甲状腺の検査を入れるように求めようと思っているのだが。
福島では対象となる人の数が多いので健康診断方式でやるしかないのだが、集団的におこなうと、切り捨てられるものも多い。だから、ほんとうは主治医がやるべき。低線量の場合、明確な症状だけでなく、疲れやすいなどのいわゆる「ぶらぶら病」もあるので、個々の症状をすくいとるには丁寧さが必要になる。東京ぐらいの線量なら、集団検診よりも、そういう目で個々の患者を見てほしいと医師会に求めたほうがいい。
肥田医師が下痢と鼻血に注意と言ったので、それが心配だと言ってくるお母さん方が多かったが、福島で私たちが見た範囲では、心配な下痢と鼻血はなかった。
ただ、今年、北海道とか何か所かでそれらの症状と線量との関係を調べてみようかと思っている。ほんとうは公衆衛生学の人間たちが、直後からチームをつくってやるべきだったのだが、最近になってアリバイ的にちょっとだけやっている。方針がない。
今のところは、食品の測定が大切だろう。産地表示ではだめで、ベクレル表示でなければ。自衛という意味では食品の測定が第一。

― ストロンチウムに対してカルシウム、セシウムに対してカリウムを摂取するのが有効とか、りんごペクチンとか、発酵食品がよいとか言われているが?
科学的に検証されたものはない。検証のしようがない。論理としてはそうだが、データはないし、大きな期待ができるものかどうか。ゼオライトなども同様。
危ないものを入れないということに気をつけるべきで、入ってしまったものを除去するというのは。除染も、評価はいろいろで、言いにくいが、私自身は使っていない。

― 科学的なエビデンスのあるなしにかかわらず、水たまりに入らないとか、日常的に気をつけた方がよいことは。
福島では、外部被曝のことは、考えたらきりがないと話した。子どもには決定権がないから、大人がこのほうがよいとなればそうなってしまうが、子どもは一日中動いているのが自然なこと。雨などは多めに見て、むしろ内部被曝に気をつける方がいい。ただし、これには、いいものを選んで食べられるという経済的余裕が必要になるので、格差が出る。ほんとうならば、福島産のものを食べなくてもすむように、つくらなくてもすむようにするのが本筋。経済的に許すかぎりで食べ物飲み物に気をつける。幼稚園などでは保護者同士で測定について話し合いができるといい。空間線量は正確にはわからないが、食品はある程度わかるので。

― 福島に残っているお母さん方から電話で相談を受けるNPOにかかわっている。福島をちょっと出られるときなどに、お医者さんに診てもらいたいがどこにいけばいいかと聞かれたら、「子どもたちを放射能から守る小児科医ネットワーク」の人を紹介してもいいか。
かまわないが、数が少ない。できれば、かかりつけのお医者さんを育ててほしい。今は大学でも放射線医学の、とくに有害性を勉強していない。いっしょに勉強してくださいと呼びかければ来てくれる人もいるはず。福島の外であれば利害もない。医師会は政治団体だから、利益がないと動かないけれど、個々の医師に呼びかけて、近所にそういうものをつくっていくことが大切。

― 福島の人に「だいじょうぶ」と言われたら、なんと言えばいいか。
相談会に来ない人のほうがたいへんだろうな、と思う。思っていない人に、たいへんだと思ってもらうのはたいへん。でもそういう人も不安になることはある。そのときに行ける受け皿をつくっておくこと。不安は優性思想につながるもので、差別につながるような不安の強調をすべきではない。受け皿だけつくっておくこと。いまはそれも少ない。東京都への避難者8000人の健康相談もできていない。

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第五福竜丸と福島の両方をいっしょに展示する企画に大きな意味を感じます。
特にマーシャル諸島の情報は今の日本にとって必要な情報と思います。
第五福竜丸をゴミにしかけていた日本人は、福島をゴミにしないように、学んで選択する大切な時だと思いました。(匿名希望)

一般報道では伝えられていない、福島の方々の複雑な状況、お心持ちを知ることができて、参加してよかったと思いました。
これまで日本が抱えてきた問題が、福島の方達を通しても、表出してきているのではないでしょうか。福島の方達と、どう関わって生きていくかということが、それぞれに問われているのでは、と思いました。(渡辺真知子さん)

〈現実〉を見つめ、受け入れることの重要性、〈こうすれば安全〉という絶対的な答えがない事実を見つめつつ、個人のライフスタイルを尊重していくことの大切さを語る山田さんのおおらかな態度に共感を覚えます。
まず個人として信頼できるかかりつけ医と良好な関係を持つことが大事なのだと思いました。行政、政治団体に期待せず、自らの社会関係資本を持つことが必要なのだと改めて痛感しています。(5歳児の父さん)

いろいろなことを考えますが、何ができるかを自分に問いかけて、ともかく、覚悟を決めて生きていこうと考えました。放射能について勉強して、これから起こることを予測し、どんなことにも自分の前に現れた現実を直視してのりこえていく(人にも助けの手を出していくことも含めて)ことではないかと思います。(匿名希望)

危険情報の拡散などが中心のあまり意味の無いフォーラムなどが多い中、人権に配慮された山田真さんのトークセッションは、これからの日本人が目をそらしてはいけない核心を語っていたと思う。(田崎光哉さん)

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全会期を通して、約180名の方々にお越しいただきました。
ふくふくのスタッフとしてこの企画にたずさわり、ご来場のみなさんとのお話やご感想から、どれほど多くのことを学ぶことができたかしれません。

「子どもたちを放射能から守る 福島ネットワーク」への寄付についてはあらためて、ブログで発表いたします。

どうもありがとうございました。

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